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今日は35℃でかなり暑かったですね!

老後の資金がありません。垣谷 美雨 著

老後の資金がありません。垣谷 美雨 著

今日は、昼にウィンナー入り卵やきと鮭とほうれん草とミートボールのお弁当を作りました。

2026年8月25日(火)老後の資金が足りません。p320〜p341

世間の人は、これほど物を知らないものなのか。

来なければよかった…。

心底がっかりしていた。日ごろから問題意識を持っている人間ならば、どこかで耳にしたことがある内容ばかりだった。情報がここにしか溢れているからなのか、誰の話を聞いても、どんな本を読んでも、昨今は新しい発見がほとんどない。

司会者が終わりの挨拶をすると、人々は一斉に立ち上がって、出口へ向かった。

ロビーへ出ると、美乃留がお茶でもしていきませんかと誘ってきた。

見ると、何かを決意したような硬い表情をしている。

うちの主人、出張中なもんですから、夕飯は作らなくていいんです。それともお二人は忙しいですか?

・・・・そうねと篤子は言い淀んだ。

アフタヌーンティーはもうごめんだ。

だめですか?

美乃留の表情が歪む。30分だけでもいいですから。

思わずさつきと目を見合わせた。さつきも切羽詰まったものを感じ取ったのか驚いたような顔している。

だけどね美乃留さん、本当に追い込まれているのは、あなたじゃなくてこの私なのよ。

だって、明日中に90,000円の振り込みをしなきゃならないんだもの。

私はいいですけどとさつきは答える。

篤子さんはどうですか?

喫茶店代はもったいないが、老後資金についての2人の考え方を聞いてみたいきがした。だが、その一方で、裕福な美乃留の話を聞いたところで、落ち込むだけで得るものは何もないだろうとも考える。

帰ってすぐに夕飯の支度ですか?

旦那さんの帰り、今日は早いんですか?

篤子がはっきりしないからか、さつきが畳みかける。

美乃留の様子がいつもと違うので、さつきはぜひとも3人でおしゃべりしたいと思っているらしい。

旦那の帰りが早いってわけでも・・・ないんだけどね。

ですよね。篤子さんのご主人、いつも残業で遅いって言ってましたもんね。

・・・・うん、まぁね。

よかったら今日は家でお茶しません?

さつきちゃんちで?

ベーカリーでパンを買った事は何度もあるが、裏手にある自宅に行った事はなかった。

私もお邪魔していいですかと美乃留が遠慮がちに尋ねる。

もちろんよ。うちの旦那は、製パン組合の会合で今夜遅いの。お義母さんも留守だからちょうどいいわ。

区役所のパンフレットには車での来場はご遠慮ください。と大きく書かれていたが、さつきは車で来たと言う。

区民会館の駐車場には止めずに歩いて数分のスーパーの駐車場に入れたらしい。

さつきの運転するライトバンの後部座席に美乃留と並んで座り、さつきの家へ向かった。

ベーカリーには、定休日のお札がぶら下がっていた。

すぐ横手に細い通路があり、そこを抜けた先にこぢんまりとした2回屋が見えた。

ちょうど店の裏側にあたる場所だ。店と家がつながっている部分もあり、家の中を通って行き来できるようになっているらしい。

なんだか懐かしい。美乃留が、感慨深げに家を見上がる。昭和の匂いがするたたずまいだった。

ちょっと、サツキちゃん。

呼びかける声で振り返ると隣家からおばあさんが顔を出していた。80代だろうか。髪が薄くなっていて、白髪の隙間から地肌が透けて見えた。

声もかなりしわがれている。ああ、おばさん、こんにちは。

竹乃さん、最近見かけないけどどうしてる?

えっと、お義母さんは・・・

そこで、サツキは、言い淀んだ。

・・・入院してるんです

そう言って、そそくさと自宅の玄関へ歩き、格子戸の鍵穴に鍵を差し入れる。

入院?そんなの聞いてないわよ。どこか悪いの?どこの病院?

おばあさんが追いかけてきて畳み掛けるように尋ねた。

どこが悪いって・・・そりゃ、なんといっても、もう歳ですから、あちこちが

やだわ。そんなこと言っちゃ。竹乃さんは私と同い年なんだから。

あぁそうだった。すみません。

冗談よ。85歳なんて正真正銘の年寄りだもの。で、どこの病院?私お見舞いに行く。

お見舞いは結構です。遠いですし。

遠いって、どこら辺?

二人の会話がなかなか終わらないので、玄関前にボート立って待っていなければならなかった。

隣家のおばあさんもしつこいが、さつきもどうしてさっさと教えてあげないのだ。

美乃留も同じ気持ちだったのか、大きなため息を漏らした。

あっごめんなさい。お待たせしちゃって。

さつきは自然なほど大きな声で、そう言うと、ガチャガチャ言わせて、玄関の鍵を開け、曇りガラスのはまった、格子戸をガラガラと音をさせて開けた。

どうぞ入ってください。

さつきは、二人を玄関の中に押し込むように、背中を押した。

おばちゃん、すみません。今ちょっと忙しいので。それじゃあまた

そう言って、格子戸をピシャリと締めた。

その時篤子は、自宅マンションのゴミ集積場で出会った、詮索好きの主婦たちを思い出していた。さつきも同じように苦労しているらしい。

さつきに隠せねばならないような事は何もないだろうが、それでも世の中には何でもかんでもねじ曲げて勝手な噂を流す人がいるものだ。

お姑さんは入院されてたのね。知らなかったわと。篤子はささやくような声で言った。さつきの婆さんが玄関前で聞き耳を立てているかもしれない。

お義母さんは、物忘れがひどくなってしまって。

さつきはとんちんかんな答え方をした。

こちらへ、どうぞ

和室の居間に通された。

適当に座ってください。そこの座布団も使って

さつきさん、もしかして断捨離されたばかりですか?

部屋を見渡した美乃留は、感激したと言わんばかりに目を輝かせていた。

本当だ。すごくスッキリしていると。篤子も部屋を見渡した。

私は断捨離という言葉で、意味がよくわからないんですよ。まだ使えるものを捨てるなんて考えられないですもん。

えっと、日本茶で良いですか?インスタントコーヒーもありますけど。

そう言いながら、さつきは台所引っ込む。まじで。玉暖簾がさつきの頭に当たってジャラジャラと音を立てた。

懐かしい。その暖簾小学生の頃、実家の台所にも同じようなものがあった。見るもの全てが懐かしく、この世は昭和時代のドラマの生徒として、このまま使えるんではないかと思うほどだった。

さつきは、木星の大きなお盆に、茶器やら、インスタントコーヒーの瓶やら、紅ちゃのティーバックやらいろんなものを乗せて運んできた。

それにしても、ものが少ないですよねと言いながら美乃留は、座布団の上で足を崩した。

断捨離していないのにものが少ない。という事は、不要なものを一切買わないと言うことか。

あぁ自分もさつきのように何一つ無駄遣いをしなければ、今頃はお金がもっと溜まっていたはず。趣味の食器を買い集めたり、カーテンやクッションカバーを買い替えたりした日々が全て空しく思えてくる。

さつきさんて相変わらず綺麗だね。

さやかは写真を見てそう言った。さつきはおしゃれもせず、美容院にも行かないのに・・・

これも貰い物ですけど。

分厚く切った福砂屋のカステラと濃いめに入れた煎茶がおいしかった。

うちは夫婦揃って甘いものが苦手だから、たくさん食べてくださいね。

だからスリムなのだ。だから若く見える。

甘いものに目がない。自分の味覚は恨めしくなる。

美乃留さん、ああいう講演を聞きに行くなんて、どういう風の引き回しなの?

疑問に思っていたことを、サツキが素直に尋ねてくれた。

実は・・・

美乃留はお茶を1口飲んで言葉を濁した。

言いたくなければ言わなくていいよとさつきが笑顔であっさり言う。

いいえ、お二人に聞いて欲しくて・・・だから、お茶に誘ったわけで。

深刻そうだったので、黙って次の言葉を待った。

こういうことになって、私初めて気づいたんです。

それまでは、何でも打ち上げられるのが友達だと思ってました。でも・・・

美乃留は言葉を切り、またしてもお茶を飲んだ。今は女子学院の同級生の前では、やっぱり目を張っちゃいます。

だから、本当に困った時は、誰にも相談できなくて・・・

前置き長いが、美乃留の口元を見つめて、核心に入るの辛抱強く待った。

お二人とも私より年上だし、もちろん歳よといっても少しだけですけど。

でも、まだそれほど親しくない分、話しやすい気がして・・・

今日、普通の知り合いと言えば、城ヶ崎先生だけですし。

そこで、黙ると、美乃留はフォークでカステラを切り分け始めた。

もしかして、お金に困ってんの?

しびれを切らしたのか、さつきがストレートに尋ねた。

今は困ってないんですが。でも将来は多分そうなりそうで・・・。

どうしてとさつきが続ける。

だってご主人はサラリーマンでしょう?

だったら、厚生年金がたっぷり入るんじゃない。

今日みたいな講演を聞きに来るのは、私みたいに商売して年金が少ない人ばかりだと思ってたよ。

それはケースバイケースでしょう。

そう言いながら、篤子は湯のみを置いた。

だって商売は定年がないもの。さつきちゃん夫婦はこの先もずっと働けるじゃない。

その上さつきは自分の尺度と言うものをしっかり持っている。

身の丈はわかっている人は立派だと思う。

自分の収入の中でうまく生活している人が真の大人だなるとか行くよ。それに比べて自分たち夫婦はどうだったか。

お金を使うのはなんと難しいだろう。節約しすぎて生活に取るようなくすのは行き過ぎだと思う。

どこで線引きをすべきか50歳を過ぎた。今でもわからない。さつきのように、自分の物差しを持ちたいものだ。

サラリーマンがうらやましいですよ。商売はほんと難しいです。

1年位前から近所にベーカリーがやたらに増えたんですよ。

ちょっと前までは、価格競争に巻き込まれるなんて夢にも思わなかったです。

だってそうでしょう。安いパンでいいならスーパーで買えばいいんですよ。

わざわざベーカリーで買うって事は、ある程度余裕のある人たちがアジア品質で選んで買ってくれるってことでしょう?

もしかして、ご近所に安く売る店ができたんですかと美乃留がすかさず尋ねた。

そうなのよ。コンビ並みの値段なのに、すごくおいしいって評判でね。

それは迷惑だねと篤子は言った。

その上とさつきは言いかけて、煎茶をごくんと飲む。

大通りに大きなビルが立ったでしょう。

あの中にも1件入ったんです。

周りは同業者だらけで商売上がったりですよ。

しかも、その大半がより便利な場所にあるんです。

さつきは、一気に言うと、フウットと大きく息を吐いた。

これほどさつきは暗い顔したの、今まで見たことがない。経営状態がそんなに悪いのだろうか。

サラリーマンは安定していていいですよね。うちはこのままだと本当に危ないんです。

表情がさらに暗くなったので、何かの慰めの言葉がないかと苦しく考えた。

うちだって大変なのよ何がですかとさつきはもっとした表情を晒した。

本当に大変なんだってば。だって。・・・・

さつきはじっと見つめてくる。下手な慰めは要らないと言っているように見えた。

夫婦揃ってリストラされちゃったんだもん。ハハハ。

明るい調子で言ったが、内容が内容だからか、2人とも笑わなかった。

そんな顔しないでよ。今のところは大丈夫なんだから失業保険が出てるもの。

でもね、その後の手は全くないのよ、心の中でつぶやく。

知らなかったです。

サツキ言いながら、お茶のおかわり入れます。ネットポットを引き寄せた。

実は、私・・・と美乃留はうつ向いたまま話し始めた

さつきに続いて、篤子も正直に告白したからか、順番に打ち明け話をする雰囲気になった。

実は子供がいないんです。

知ってるけど?

それは私も聞いてるよ。

2人がそう答えると美乃留は歯食いしばるように、口を真一文字にした。

ミルミルうちに、目に涙が溜まってきた。

だから、いつかはこういう日が来るんじゃないかと恐れていて、でもまさか本当に・・・

お酒、飲もうか。焼酎か梅酒か発泡酒ならあるよ。

美乃留さんは飲めるんだっけ?

いただきます。

焼酎のお湯割りでと美乃留が洟をすすりながら答えた

飲も飲も。

さつきは、勢い良く立ち上がると、台所に入っていった。

その後姿に篤子は声をかけた。さつきちゃん何か手伝おうか。

じゃあお願いしてもいいですか?

さつきに続いて台所へ入った。

ガスレンジの上に、ホーローの赤いヤカンがあるだけで、後は何もなかった

自分の家の台所に、いかに無駄なものが多いのかを思い知らされた。

整然と片付いているだけでなく、流しやガス代はピカピカに磨かれている。

かなり古そうだが、大切にすれば、これほど長く使えるのかと思うと、10年ほど前に水回りをリフォームした自分が愚か者に思いてきた。

さつきちゃんて、すごくきれい好きなのね。

習慣になってるだけですよ。ベーカリーの厨房を片付けるときは、水滴1つ残さず拭き取りますからね。

いつの間にか、自宅の台所もそうするようになっちゃって。

テーブルの上に台湾バナナが置かれていた。

フィリピンバナナと違い、ずんぐりしているからすぐにわかる。

さつきちゃん、台湾バナナ好きなの?

いつだったか、さつきに借りたハウツー本、結婚式のマナーと常識に、スーパーのレシートが栞代わりに挟まれていた

私たち夫婦のたった1つの贅沢なんですよ。

バナナは絶対に台湾バナナです。

そういって、さつきは笑った。

2人で飲み物や簡単なつまみを用意して、今に戻ると美乃留は目を真っ赤に腫らしたように、宙を見つめていた。

うちの旦那、会社の若い子を妊娠させてしまったんです。

美乃留は、ハンカチで顔を覆った。

もう8ヶ月なんですって。

サツキが何も言わないので、重い沈黙を破ろうと篤子は言った。

それは・・・大変ね。

大変なんてもんじゃないです。

美乃留は顔をあげて、篤子をキッと睨んだ

自分の気持ちがわかってたまるかといった感じの目つきだった。

主人は一人っ子なんです。だから姑がすごく喜んでるんです。やっと孫ができるってそれは傷つくね。

ようやくさつきが口差し挟んだ。

全人格を否定されたっていうか、嫁として失格レッテルを貼られたんです。

お姑さんは、考えが古いのよ。

さつきがそう言うと、美乃留は我が意を得たりとばかりに頷いた。

お子さんがいらっしゃるお二人に、わかってもらえてうれしいです。

こんな深刻なお話をそれほど親しいとは言えない自分たちにする位だから、本当に相談する人がいないのだろう。

他の誰にも相談してないの?と尋ねた。

実家の母には相談しました。最初は母も怒りまくってましたが、最近になって仕方ないね、もう別れてあげなさいって言うんです。

結婚して、幸せそうな家庭でも、子供が出来なかった為に、愛人に子供ができてしまって、夫に別れようと言われて、可愛いそうだなと思いました。

田中 深雪 





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