今日は、ラジオ体操に参加して、デニーズでパンケーキを楽しみながら介護福祉士の模擬問題集にも取り組みました。
今日は、「老後の資金がありません」についてピックアップしました!
2026年8月18日(火)p71〜p105まで抜粋
父さんの介護にかかった費用をメモしておいたの。
家でずいぶん負担させてもらったわ
そう言うと志々子は兄を上目遣いでチラリと見たわ。
常に堂々としている彼女にしては珍しい目つきだ。
そうか、それは大変だったな。ありがとう。
夫は素直に妹に例を言った。
ですけど・・・・と、篤子は思わず口を挟んでいた。
すると、志々子だけでなく、櫻堂までも、鋭く篤子の方を向いた
篤子さん何か?
口調だけはゆったりしているが、志々子の表情は険しい。
えっと、ですから・・・
気圧されて、しどろもどろになるが、今ここで言わなくてはならない。
そっと鼻から息を吸い込み、思いっきり吐き出した。
家だって仕送りしています。
毎月90,000円と言うのは、我が家にとってはすごく厳しい額なんです。
かつて、夫の実家は、浅草で、バグ堂と言う和菓子屋を営んでいた。
夫に後を継がせるつもりだったが、夫はさっさとサラリーマンになってしまった。
その後は、妹の志々子に婿養子をもらう話が出たこともあったらしいが、志々子は、仕事先で知り合った研究者の櫻堂と結婚してしまった。
後次のないまま舅はその後も営業を続けた。
が、70歳になったのを区切りに、明治時代から続いていた店を閉めた。
浅草から九十九里浜に引っ越したのは志々子の所へちょくちょく遊びに行く
家に、温暖な気候を気に入ったからだった。
浅草の家を売り、志々子夫婦の五見隣に、和風建築の平屋を建てた。
自営業だったため、月々の年金額は少ないか、なんといっても浅草の土地が2億円で売れたのが大きかった。
夫婦で、豪華客船世界一周を皮切りに旅行と美食三昧の贅沢な生活を満喫するようになった。
しかし、その数年後、舅は、肺気腫を患って、寝付いたのが原因で、足腰が弱り、血圧の高かった姑は軽い脳梗塞を発症した。
それをきっかけに夫婦揃って九十九里にあるケアマンションに入居した。
せっかく立てた平屋には、数年暮らしただけで、今は空き家になっている。
志々子が空気の入れ替えに通っているから、家の中はさほど傷んではいないらしいケアマンションには、篤子も何度か訪れたことがあるが、ロビーはまるで海外のリゾートホテルとか見紛うような立派な大理石作りだった。
ふかふかの絨毯の長生き足に埋もれるようにして、堂々たる上質な川張りのソファーがいくつも置いてあり、正面の台の上には、大きなツボに施設の花々が飾られていた。
着抜きになっている天井は高く、そこから自然光が燦々と降り注ぎ、エレベーターホールへと、通路の壁には、絵画が飾られ、まるで美術館のように、薄暗いスポットライトが当てられていた。
図書室、ジム、集会室もあるし、ゲーム室まである。
一流シェフを揃えたレストランも広々としていて、豪華でウェイターも清潔感がある男前ばかりだ。
その上、最上階にはグランドピアノの置かれたバーラウンジまである。
入居一時金だけで1人20,000,000円もしたと聞いた。
コンシェルジュはもちろんのこと、看護師や理学療法士も常駐していて、すぐ隣には系列の総合病院がある。
料金は月額1人220,000円だが、夫婦同室の場合は2人で380,000円と少し割引がある。
だが、食費や光熱費は別料金だ。
親父もお袋も長年に培って働き詰めだった。
1年365日ほとんど休みなしで、早朝から深夜まで働いてきた。最後位は贅沢しないとな。
その当時、夫がよくそう言ってたのを覚えている。
残り少ない人生を、設備の整った施設で心穏やかにのんびり過ごしてもらいたい。
みんながそう思っていた。
当時の舅は骨と皮ばかりに痩せ衰え、姑は静かに微笑むだけで、生きる気力をなくしているように見えたから、ほんの数年であの世に逝くような気がしていた。
しかし、それから17年。
まさか、これほど長生きするとは。
誰も口には出さないが、思いは皆同じだろう。
1年前に舅に癌が見つかって、入院した時点で、浅草の土地を売っていた2億円はそこをついた。
もう退院する事は無いだろうと、舅の分のケアマンションを解約し、姑は1人部屋に移った。
今では秋1人分の220,000円と生活費の80,000円で合計300,000円が必要だ。
負担の内訳は、舅、姑の国民年金がそれぞれ約60,000円で計120,000円。
それに、篤子夫妻と志々子夫婦がそれぞれ90,000円ずつ仕送りをして全額で300,000円になる。
舅は延命治療はしていないし、民間の医療保険や外資の
がん保険から保険金が出ていることもあり、今のところ入院治療費は何とかなっている。
そもそも後期高齢者は自己負担の割合が少ない。
老人ばかりに手厚い、国だと避難する人も多いが、親の面倒を見なければならない子供世代が助かっているのも事実だ。
あのね、うちだって月に90,000円出してますよ。そもそも金だけ出せばいいってもんじゃないでしょう
びっくりした?桜堂が愚痴を出すとは思いもしなかった。
夫も驚いたのか、ぽかんと口を開けて櫻堂を見つめている。
理系の研究者は、家計の話などには、一切興味がないものと決めつけていた。
いつあっても、彼は白いシャツとグレーのズボン姿だ。
洋服を数着しか持っていないのか、それとも同じ服しか買わないのかはわからない。
すらりとしていて、彫りの深い顔立ちだから、今風のものを着れば、それなりに見栄えがするからと思うのだが、そういうことには全く関心がないらしい。
休日は浜辺を散歩したり、読書をしたりするだけで、研究のためにアメリカに赴くことはあっても、都心のデパートに行くことなどめったにないと聞いている。
そうだよ。あんな職人肌の頑固親父の世話は大変だったと思うよ。
夫が、妹夫婦の方を持つとは思わなかった。
私は父さんの面倒を見るために仕事もできなかったんだから。
耳を疑った。志々子は結婚依頼、ずっと専業主婦だ。消灯を探しているとか働きたいなどと言うのさえ聞いたことがない。
櫻堂の年収は15,000,000円を超えると聞いている。
秀才の息子は2人いるが、既に独立していて、長男は都心に、次男はミュンヘンに住んでいる。
一体何がそんなに大変だったと言うのか。
確かに、舅は常に苦虫を噛み潰したような顔していて、篤子だけではなくみんなが苦手だった。だが、肺気腫と診断された時点で、素早くケアマンションを契約して老夫婦を放り込んだのは志々子ではなかったか。
姑の脳梗塞にしても、ごく軽いものだったから、リハビリの効果もあって、今では通に暮らせている。
志々子が介護したわけでもない。
末席でちんまりと正座している姑を見やると静かにお茶を飲んでいる。
聞いているのかいないのか。さっきから何も言わない。しばらく会わない間に、耳が遠くなったのだろうか。
舅に負けず劣らず骨と皮ばかりに痩せてはいるが、色白で細表の美人であることに変わりはなく、バグり堂の看板娘と言われた昔を想像させる。
店に勤める和菓子職人だった舅は、店主に見込まれて、看板娘だった姑と結婚して店を継いだ。
家の方が兄さんのとこより多く負担しているわよ。
月に90,000円なんだろう。うちと同じじゃないのか?
それだけじゃないわよ。病院やケアマンションのスタッフは、私たち夫婦が近くに住んでいることを知っているのよ。
最低でも週に1回は顔を見せなわけにはいかないでしょう。
毎回、手ぶらで行くわけにはいかないから、お医者様に心付けを渡したり
看護師さんに差し入れをしたり、色々と大変なのよ。
兄さんは男だからね、そういった細々したことに想像が及ばないのは仕方がないとしても
そう言って、篤子を見据えた。
だけど、あなたは女だから本当はわかってるんでしょう?
そう言ったげな目だった
だったら証拠見せてください。
こっちだって、そう言いたかった。
ノートにきっちりと領収書貼ってる位だから、簡単でもいいから、収支報告書を作って見せてくれてもいいではないか。
几帳面で聡明な志々子なら、そんなことくらい朝飯前では無いのか。
こっちは大雑把な収支と支出を聞かされるだけだから、心の中がモヤモヤしっぱなしだ。
100円単位で節約して生活している自分にとって、収支すら明確でないのに、月に90,000円も仕送りしなくてはいけないことが、精神的なストレスにもなっている。
だけどさぁ、2億円もあったのに、そんなに早くなくなるもんかね。
夫は素朴な疑問は何気なく口にしてみたと言った感じだった。
多分悪意わなかった。
だが、櫻堂は夫の言葉に言い切り立った。
まるで、僕らが義兄さん夫婦騙してるように聞こえますけど
えっ、そういう意味じゃないよ。
夫は慌てて言い、手のひらを目の前で大きく左右に振る。
ただね、最初は、親父たちもつましく暮らすつもりだったはずなんだ。
だって九十九里に住み始めた当初は野菜作りに励んでただろう
近所の畑は借りたらいいが、野菜はどれもこれもうまく育たなかった。
二年ほど経って、やっと少し探れるようになり、篤子夫婦のマンションにも、何度かジャガイモと玉ねぎを送ってきてくれたことがある。
兄さんたら、本気で言ってんの?
お野菜なんてスーパーで買ってもたいした額じゃないわよ。
篤子さん、あなた、お野菜にいくら使ってる?
えっと・・・
スーパーでは肉も魚もパンもチーズも野菜も一しょくたに買う。
例えば、白菜やキャベツを丸ごと買ったら長い間持つし、トマトは年中高いけど・・・・
そうですね、週に1000円から1500円てところでしょうか?
でしょう?月にせいぜい5000円位のものよって事は年に60,000円
肥料や苗や畑の賃貸料を考えたら、節約どころか、元さえ取れてないわよ
そういうわれりゃそうだなと夫はすぐに納得する。
あのね、兄さん、敏人の野菜作りっていうのはね、節約のためなんかじゃないのよ。贅沢な趣味なの。
結局のところ、志々子は何か言いたいのだろう。1分をぶつけるようなことばかりを言われても、どうすればいいのかわからない。
あのう・・・つまり、月に90,000円じゃ足りないということですか?
おずおずと尋ねてみた。もっと出せと言われても困るが、あと10,000円でいいのか、それとも50,000円かとあれこれ考えるだけで疲れてしまう。この際はっきり言ってもらいたい。
仕送りは今まで通りで結構よ。ただ1つだけ兄さんにお願いがあるの。
志々子はいきなり、居住まいを正した。
父さんが死んだら、兄さんの方で葬儀を取り持ってもらいたいです。
なんだ、そんなことか。いいよ。
夫はあっさり了解した。だって俺、長男だもん。喪主はやっぱり俺かなって考えてたから。
姑に喪主は務まらないだろうと、夫が判断するのも無理は無い。姑は見るからに頼りなさそうだ。
兄さんがそう言ってくれると心強いわ。
何せ浅草で長く商売してたから、葬式もあの近所でやらないと、誰も来てくれないと思うのよ。
年寄りには、九十九里は遠すぎるわ。
確かにそうだな兄妹の間で話が進んでいく。姑に相談する気はさらさらないらしい。
以前から、この兄妹は母親のことをあまり好きではないのではないかと感じていた。
夫はマザコンとはほど遠く、親しみすら抱いてないように見える時ある。
母親は店を切り盛りしていて忙しかったから、家事や子育ては祖母とお手伝いさんに任せっぱなしだったらしい。
子供が生まれた後も、先に立って、看板娘としての役割を果たしていたと言うから、もともと子煩悩なタイプではなかったのかもしれない。
兄さん、それでね、悪いんだけど、組織票もそっちで持ってもらえないかな?
それは・・・
さすがに夫も戸惑った顔をしている。
たいしてかからないと思うわ。香典でチャラになるまでとは言わないけど、あの辺りは、昔ながらの由美で、結構みんな高額を包んでくるでしょう?
ああ、それもそうだなぁ。
一般的に言って、葬式代と言うものはいくらいくらかかるものなんだろうか?
篤子の両親は、ともに健在で、毎日から葬式を出した経験がなかったので、検討がつかなかった。
ねえ母さん、葬儀は、鳳友典礼でいいのよね。
志々子が問うと、部屋の隅で、姑は頷きながら言った。
代々、お世話になってるから、きっとよくしてくれると思うわ。
わかった。俺の方から連絡してみるよ。
夫はそう言い、冷えた麦茶をごくんと飲んで続けた
親父の財産と言えば、もう九十九里の平屋だけだっけ?
あんなの二束三文ですよいきなり、櫻堂が口を出した。
そうかなぁ。敷地は結構広いだろう。それに環境もいいし。
兄さん、考えが甘いわよ。ここは駅から遠いし、老夫婦の2人暮らしには十分な家かもしれないけど、ファミリー層には狭いもの。
不動産屋に聞いた話だと、今せいぜい5,000,000円位だろうって。
いつの間に不動産屋に査定してもらったんだろう。宇多代金を一人占めする気なのか。
あの家はあのまま置いておこうよ。
夫がのんびりした調子で言う。だって俺もあと何年かで定年だし、そしたらたまには海の近くで過ごすのもいいなと思ってたんだ。
それに、いつか孫ができたら海水浴で使えるしさ。
章さん、また、現実離れしたこと言って知らない間に、口をついて出ていた。
嫁の立場で財産のことを口を出すべきではないと、自分を戒めていたはずだった。と言うのも相続で、兄弟姉妹が骨肉の戦いになるのは配偶者が愚痴を出すからだと何かで読んだことがあるからだ。
篤子、俺のどこが現実離れしてるって言うんだよ。
だって維持費がかかるじゃないの。固定資産税だっているし、気が向いたときにふらっと行って泊まりたいなら、今まで通り電気も水道も止めずに、基本料金を払い続けないとならないのよ。それだったら、ホテルに泊まったほうがいいよ。で安上がりだわ。
ちょっとちょっと、兄さん夫婦があの家を老後に使うだなんて、そんな勝手なこと言わないでよ。
あれは兄さんと私の共有財産になるのよ。
兄さん1人のものじゃないわ。
志々子も使えばいいじゃないか。
何のために使うのよ。ここから5件しか離れてないのよ。
それもそうか。
兄弟2人の会話を聞いていると、まるで舅姑ともに既に亡くなったかのようだ。
部屋の隅に姑がいるのに、こんな話を続けて良いものか。
姑はずいぶん変わってしまった。
敦子が結婚したばかりの頃は、いつあっても、和服に真っ白い割烹着を着て、髪を高く結衣あげていた。
その頃はまだ50代で、きれいとした中にも同じに色香があり、中年になっても贅肉のない美しい人だった。
毎日和栗堂の店先に立って、客に愛想を振り巻き、店員を叱咤激励し、女だてらに商店なんで主会の副会長も務めていた。
口八丁手八丁と言うのは、こういう人のことを言うのだと思ったものだ。
だが、今は生きる気力をなくしているように見えた。
至れり尽くせりの施設と言うのも考えものだ。
居心地が良すぎて、ストレスが溜まることさえないと、感情の起伏まで失ってしまうものなのか。
音が見舞いに行くと、姑はいつも部屋の中で1人ポツンと椅子に腰掛けて、窓の外を見ているらしい。
入所して17年にもなるが、今だに親しい友人はできないと聞いている。誰とも話すことのない日常はきっと苦しいだろうとさせられた。
あのう・・・・
姑のいる前では言いにくいことだったが、今言わないと後悔する。そう判断して口を開いた。
たとえ二足三文であっても、売り払ってお葬式の費用に当てるべきではないですか?
そりゃそうだ、もっともだ、誰しも言うかと思ったら、なぜか冷たい目を向けられてた。志々子夫婦からだけでなく、夫からも。
まだ父さんは死んでないのよと志々子は冷たく言い放った。
は?
だからなんですか?
葬式の話を始めたのはそっちではないか。
実の娘は良くても、血のつながらない嫁が言うのは許せないと言うことか。
本来なら、金のかかるケアマンションを、一刻も早く解約してもらいたかった。そして姑は平屋に住み、その5件となりに住、志々子がちょくちょく様子を見に訪問する。もちろん必要ならヘルパーやデイサービスを利用すれば良い。
そういった方法が、最も経済的ではないか。
まさに、スープの冷めない距離と言うものだし、実の母娘なのだから、姑と嫁の関係に比べれば、ずっと楽なはずだ。
2億円の預金がそこをついて赤字になった時点で、すぐさまそうして欲しかった。
いや、さらに言うなら、豪華客船などに乗らず、きちんと節約して計画的に暮らして欲しかった。
自分の知り合いで、親に仕送りをしている人など1人もいない。
みんな自分たちより親の方が金持ちだ。口を揃える。それど
頃か、地下の高い東京では、何億もする都市の土地を子供に遺して死ぬ年寄りがゴマンといる。
もっと遠慮なく言えば、志々子夫婦が住むこの家に、姑を引き取って暮らすのが最も安上がりだ。
独立した息子たちの部屋が両方とも空いている。とは言え、日ごろから母親に対して冷たい態度の彼女が、自宅に母親を引き取るとは考えにくかった。
そもそも金に困ってるわけではないから、月々90,000円の負担等痛くも痒くもないのだろう。
平屋を売らないのなら、葬儀の費用は折半にしてもらえませんか?
冷たい視線の中、思い切って行ってみた。
おい、篤子、葬式の費用位俺が出すってばさ。長男なんだから。
章さん、そんなお金・・・・
一体どこにあるのよ、という言葉を飲み込んだ。
見えっ張りの夫は、妹夫婦の前で恥をかくの極端に嫌がる。
さやかの結婚式が、人生最後の大きな出費だと思っていたのに・・・・
こんなことでは、自分たち夫婦の老後が心配でたまらない。
何を言っているの?
志々子の大声に驚いて、目をやると、正面から睨んできた。
篤子さんは知らないんだろうけどね、子供の頃から兄さんばっかり可愛がられてきたのよ。
一体何の話だろう。突然の剣幕に夫も唖然としている。
兄さんは和菓子屋の跡継ぎだからって、それはそれは大切に育てられたのよ。いつだって、兄さんだけは、好きなものを買ってもらえたわ。
志々子は目に涙を溜めていた。今まで毅然とした態度しか見たことがなかった。
たまのステーキの日だって、兄さんの方が大きかった。
あまりの子供ぱさに噴き出しそうになった
ここで笑うとまずい。慌てて下を向き、ハンカチで口元を覆って上からきつく押さえた。
それなのに、兄さんは和栗堂を継がなかった。
兄さんが結婚してマンション買うときは10,000,000円も頭金を出してもらったのに、私たち夫婦には1円も援助してくれなかったのよ。
それは・・・
ずっと黙っていた姑が口を挟んだ。
その当時から櫻堂さんは、章の今以上の給料もらってたでしょう?
それに、章の所と比べれば、この辺りはずっと土地も安いんだし。
母さん、いい加減にしてよ。誰がいくら給料をもらおうと関係ないじゃないの。子供平等に扱うのが親ってもんでしょう。
櫻堂がティッシュを運ぼうと差し出すと、志々子は思い切り洟を噛んだ。
お義母さんと櫻堂が厳粛な声を出す。
志々子はずっとこのトラウマを抱えて生きてきたんですよ。
お義兄さんに比べて、自分は全然可愛がってもらえなかった。
そう思うのは、何歳になっても辛いことなんです。
姑は何も答えず、湯のみを抱えて、うつむいてしまった。
とにかく、親父の葬式の事は俺に任せてくれ。
そう言って、夫が腰を上げた。
そろそろ帰るとするか。
うまく丸め込まれてしまったのではないか。
で、結局、あの平屋はどうするんですか?
あのまま置いておくんですか?
尋ねたかったが、嫁の立場でこれ以上口出しするのははばかられた。
それに、家を購入する際、志々子夫婦には援助せず、自分たち夫婦にだけ頭金を出してくれたなんて初耳だったから、志々子の言っていることが正しいような気もしてきて、頭が混乱していた。
だが、現実問題として、うちは、老後が不安だが、志々子夫婦は豊かだ。食器棚にあった。コーヒーカップも高級ブランドばかりだ。
ったし、彼女が今、首に下げているバラの形のペンダントは、ピアジェではないか。
図書館から借りた雑誌で見たことがあるが、真ん中にダイヤモンドが埋め込んである形のは確か600,000円はしたはずだ。
あんまり素敵だったので、パルコのアクセサリーショップで似たようなものを2980円で買ったことがある。
モヤモヤと暗い気持ちになった。
葬儀を受けた形のまま帰っても良いのだろうか。
不安で心がいっぱいになった。
だから言った。このノートしばらく貸してもらってもいいですか?
そんなの持って帰ってどうすんのよ。
志々子は、詰問調で言うと、キッと睨んだ
志々子さん、うちは、家計が楽じゃないんですよ。だから精査してみたいんです。
本当に月々9万円も仕送りしなければならないのかどうかを。
そんなふうに、正直に言えたら、どんなに楽だろう。
今後の参考になるかと思ったので。
参考って、何のだから・・・いろいろと
何なのよ、いろいろって、わけわかんない。とにかく持ち帰るのはお断りするわ。今でも毎日使ってるんだから。
そう言うと志々子は、素早く腕を伸ばし、ノートを奪い返した。
4 篤子が買い物から帰ると、リビングにさやかと勇人がいた。
姉ちゃん、麻布寿園に決めたんだってね。すげえなぁ。
勇人はソファに寝そべったまま、さやかに向かって言ったはず。
別に凄くないよ。
さやかはダイニングの椅子に座って本を読んでいた。
彼女が読書の楽しさに目覚めたのは、つい数年前だ。といっても、今夢中で読んでいるのは、中高生向けの海外ミステリーだ。
ねぇ、さやか。地味婚じゃあダメなのかな
篤子は思い切って口に出してみた。
心の中のモヤモヤを、1度でいいからぶつけてみたい気持ちに駆られていた。というのも、先日さつきから聞いた、智之くんのジミコンのことが頭から離れなかったからだ。
ママ、もしかして、お金がないの?
そう尋ね返した顔が、幼い日の今にも泣き出しそうな顔と重なる。
やあねぇ。お金ならあるわよ。だけどね、スタート時点からそんなに贅沢するのは、若い2人のためにならないと思うの。
それも、自分で稼いだかになら、ともかく、親の金で・・・・と言う言葉を飲み込む。
娘を首に思うようになったのは、いつ頃からだったか。多分小学校の高学年位からだったと思う。
自分も夫も、少なくとも小中学校時代は活発で成績も良かった
だからこそ、余計にさやかのことが心配だった。
ところで、さやか、結婚式の見積書を見せてくれない?
言い方を変えてみた。明細をじっくり見て、省略できる箇所はないか、もっと値段を抑える項目はないかを検討したかった。
明細は琢磨さんが持っているの。私は数字が苦手だから。え?
何を寝ぼけたこと言ってんの泣け出しの老後の資金を取り戻す親の身にもなってみなさいよ。どうして少しでも節約しようと考えないのよ。!
叫び出しそうになった。だからくるりと背中を向けて、そのまま台所に入り、深呼吸しながら自分のためにコーヒーを入れた。
姉ちゃん、全部でいくら位かかんの?
カウンターキッチンを通してのんびりした声が聞こえてきた。
そうねえ、大体6,000,000てどこじゃない?
まるで、他人事のように、さやかに抑えようとしていた怒りが爆発そうになった。
大体ってなんだ。
全部で5,743,892円です。とか言うならまだしも。
まじ? 6,000,000万円?
そんなにすんのかよ。それって一体誰が出すの?
素朴な質問があり方かった。
これを機に、考えを改めてもらいたい。
多分、両家、折半だと思うけど?
姉ちゃん、そんなに貯金してたの。
素晴らしい質問だ。いいぞ勇人、よくぞ言ってくれた。
まさか。うちは、お父さんが出してくれるって言ったから。
へー。親父も思い切ったもんだね。で、琢磨さんのほうは自分の貯金から出すの?
どうだろう。そこまでは知らない。
派手にやりたいのは、琢磨さん側の意向なんだろう?
親の商売所の都合で、盛大にやるんだったら、向こうが多めに出してもいいんじゃねーの。
姉ちゃんはアルバイトで稼ぎが少ないんだし。
そうはいかないでしょう。
言いながら、さやかは台所から出てきた。母親の方をちらりと見た。
親の介護にかかる費用は施設だと、入居金2,000万円月々30万円位は用意しなくてはいけないなと思いましたが、私も、お金がありません。
働きながら、貯めたいと思いました。 田中 深雪より
