今日は、海鮮焼きそばを作ってみました!
今日は、夕方に雷雨が降ってきましたね!
2026年8月22日(土)p201〜p245より抜粋しました。
リビングに掃除機をかけていると、ポケットの中の携帯が振動した。夫からだった。勤務中に電話をかけてくるなんて珍しいもしかしてが亡くなったとか?もしもし、篤子か?どうしたの?こんな時間に俺の会社、もうダメらしい。ダメってどういうこと?夫の会社がリーマンショックの煽りを未だに引きずっている事は聞いていた今朝、御社の人事が説明に来たんだよ。それによると申し機能だけを残して、それ以外は全員解雇だとさ。
まさか、章さんもその中に入ってるの?入ってる。どうして建設は人手不足だってニュースでもしょっちゅう言ってんのに。篤子、もう仕方がないんだよ。だけど、震災の復興工事や東京オリンピックで、仕事はいっぱいあるんじゃないの?そんなの大手がみんな持っていってしまうよ。うちは、1次下請けだったはずなのに、社長の経営手腕がいまひとつで、いつの間にか三次下請けに格下げさ。工賃が、安すぎて、やっていけないとは聞いていた。だけど、篤子が言うように人手不足と聞いていたから、何とかなるだろうって気持ちもあったんだ。それなのに、東南アジアからの出稼ぎ労働者ばかり集めたような会社が、もっと安い工賃で受けるようになっちゃって、それが原因でうちの会社は傾き始めたらしい。夫は饒舌だった。興奮状態といっても良いほどだ。て事は、夫婦揃って・・・馘になったってことか?いきなり体軒がぐにゃりと曲がってしまう感覚があり、とっさに壁によりかかった。心細くてたまらなかった。足元が崩れていくってこういうことなのか。章さんは、いつまで勤められるの?来年の3月末までた。退職金はどうなるの?1円も出ないらしい。そんな・・・篤子、すまん。急に暗い声になり、語尾が消えがかかる。夫が情緒不安定に陥っているのが手に取るようにわかる。なんだか嫌な予感がした。自殺なんて事は無いよね。章さんのせいじゃないよ。今後のことは、じっくり話し合おうよ。・・・・うん、篤子、本当にすまん。今夜は、章さんの好きなおでんにするよ。久しぶりにいっぱいやろう。・・・・そうか、そうだね。うん、今日は早めに帰る。どうせ馘になるんだもん、残業なんてしなくていいからねもうこれ以上、会社に奉仕する奴は馬鹿だよハハハ、言われてみればそうだな。夫の笑い声を聞いて、少し安心した。
その夜、夫はいつもより早めに帰宅した。いっぱい飲んだだけで、頬を染めている。若い頃はどんなに飲んでも顔色1つ変わらなかったのに、いつの間にかに、夫も追いに向かっているんだと、しみじみ思う。ところで、篤子、今家の預金はどれくらいあるんだっけ?3,000,000円よ。え?たったそれだけ?驚いたような顔でこっちを見た。一度匂いが覚めたといった感じで、緩んでいた頬が戻り、真顔になっている。やはり妻をうちでの小槌か何かだと思っているらしい。章さん、あんなに使えばなくなるってば。あんなにって、何に使ったんだっけ?
呆れてものが言えないとはこのことだ。いくらなんでも、ここまでお金に無頓着だとは思いもしなかった。さやかの結婚とお父さんの葬式とお墓だよ。うん、そうだったな、そうだよな。簡単に納得するのね。金の事は任せてあるから、篤子はそういうならそうなんだろう。信用しすぎだよ。世の中には、夫に隠れて毛皮のコートを買ったり遊びまくったりして、贅沢三昧してる妻もいるって聞くよ。篤子さんもとあろう方が、それはござらんだろうふざけた言葉遣いをするところからして、この期にを読んで、深刻に捉えていないのか、それとも明るく乗り切っていこうとし7P207ているのか、長年の付き合いでも、心の中は読めない。篤子様はドケチでござるから、お金に関しては信頼しておるぞ。それは褒め言葉なのか?あらそう。それはどうも後悔したところで、お金を取り戻せるわけではない。前向きに考えるしかない。夫が年金をもらえる65歳になるまであと8年だ。その日まで何とか食いつないで行かなければ。俺はまだましな方だよ。どちらにしろあと3年で定年を迎えるところだったんだから。それに比べて他の奴らはかわいそうだよ。40代の山内の所なんて奥さんは専業主婦だし、子供はまだ幼稚園なんだぜ。
そう言うと、夫はため息をつき、発泡酒を1口飲んでから続けた。馘になった場合は、自己都合退職と違って、すぐに失業保険が下りるだろう。それがせめての救いだよ。夫は、こんにゃくにからしを丁寧に塗って、うまそうに食べた。65歳から年金も・・・言いかけて、夫はいきなり黙った。どうしたの?相当かけようとした時、目があった。基金の事だけど、本当に済まなかったと夫頭を下げた。今までずっと気にかけていたんだろうか?7年ほど前のことだ。夫の誕生月に日本年金基金から年金定期便が郵送されてきた。50歳を過ぎると、将来もらえる年金額が記載されるようになる。夫の年金額は、年金問題を特集したテレビ番組などで見る学よりずっと少なかった。だが、篤子はそのからくりを知っていたので、気に留めていなかった。会社が年金基金に加入している場合は、危険の方から相当額が出ると言う。そしてその額は定期便に記載されていない。年金基金に入ってるよね。そう夫に念押しした時だった、夫は素早く目をそらせた。夫の会社は、ライバル会社に吸収合併されたことがあった。夫が40代半ばの頃だ。それと同時に、会社はそれまで加入していた基金から脱退したと言う。その時、それまで積み立ててきた基金を将来受け取れるようにするか、それとも一時金として、今すぐ受け取るかを選択するよう会社側から言われたらしい。なんと、夫篤子に内緒で一時金として受け取ってしまったと言う。聞けば、500,000円ほどだったと言うが、そのせいで将来の年金額はがくんと減った。女社員で一時金として受け取った人は1人もなかったが、既婚の男性社員の多くが、妻に内緒で受け取ったらしい。それを飲み食いに浪費したと言う。それ知った時、篤子は激怒した。なんて、軽薄な男だろうと詰まった。日本の年金と言うのは夫婦1組で成り立っている。つまり、夫の年金は夫だけのものではない。夫婦の老後の生活の基盤となるものだ。一時金として受け取ればたったの500,000円でも、年金となれば大きな化けるのだ。老後の1枚は大きい。現役時代の10,000円とは全く違う。今なら、たった10,000円じゃブティックのウインドウに飾ってあるワンピースさえ買えないえなんじゃないのと思う。だけど、将来、自分が貧乏な、老女になったら、?その時、1万円あればスーパーで安売りの食パンが一体何斤買える?卵が何パック買える?章さんその事はもういいよ。そう言うと、夫は驚いたように顔を上げた。あれから篤子の考えは変わった。大の男が、昼食代を含め、月々使うのが50,000円と言うのは、少なすぎたのではないか。たったそれだけでは、人生が面白くないだろう。いつごろからか、そう思うようになっていた。私、フラワーアレンジメント教室を辞めるよ。
なんでだよ。たいした費用じゃないだろ花なんて、贅沢だもん。お腹が膨れるわけでもないんだし。今時の小学生だって、もっと小遣いもらってるぞ。それに教室を辞めたら、さつきさんとの付き合いも終わってしまうんじゃないか?これでほど反対するとは意外だった。妻にその程度のことさえしてやれない。俺。叫びが聞こえるような気がした。教室を辞めたら、もっと精神的に追い詰めてしまうかもしれない。これ以上惨めな思いをさせてはいけないのではないか。じゃぁ、お言葉に甘えて続けさせてもらうわね。そう言うと、夫は嬉しそうに微笑んだ。それにしても、篤子、おでんをずいぶん多めに作ったんだな。言っとくけど、今日から三日間おでんだからね。食費、もっと引き詰めることにしたのだった。いいねぇ。俺おでん大好きと。夫はうれしそうに笑った。やはり夫は少しずれている。呆れる思いで夫を見た時だった。ただいま。玄関から勇人の声が聞こえてきた。2人ともニコニコしちゃって、何かいいことあったの。秘密よ。笑顔で答えると、勇人も明るく笑った。夫のリストラの事は子供たちには伏せておこう。勇人人も就職も決まり、単位もほとんど取り終え、全てが順調だ。今まさに自由を謳歌していて、人生で1番楽しい時期かもしれない。そんな明るい笑顔に、わざわざ影を落と必要は無い。もしかして、宝くじに当たったとか?勇人は自分でご飯をよそって食卓に着いた。そんな甘い話あるわけないだろう。老後は何とか暮らしていきそうだって話していたんだ。示し合わせただわけではないが、夫もリストラされたことを話す気は無いらしい。だったら、篤子さんはもう働かなくてもいいんじゃないの?もう歳なんだしさ。篤子が馘になったことだけは話してあった。今日は行かないわよ。私だって小遣い稼がしたいわ。旅行したり洋服買ったりしたいもの。それに、家でぼーっとしてたら老けちゃうよ。それもそうだね。でも無理すんなよ。最近目の周りにシワが出てきたし。やだ、それ言わないでよ。温かな、空気が流れたように思ったら、家族団欒の中にさやかがいないのが寂しかった。舅の葬式依頼、会っていない。たまにはさやかに電話してみよっかな。うん、かけてみろ、早く。夫が急かすので、携帯電話をエプロンのポケットから取り出した。何度かの呼び出し音で、さやかが出た。はい。硬い声だったもしもし、さやか?お母さん、お久しぶり。明らかに歓迎してない声音だ。元気にしてた?たまには家に帰ってくれば?うん・・・そうね。俺にもさやかの声を聞かせろよと夫が言う。さやか、お父さんも声が聞きたいって言うから、スピーカーフォンにするね。うん。いいよ。お父さんも勇人も元気?元気よ。勇人は相変わらずよく食べるし、よくしゃべるわ。無口な男がかっこいいなんて、時代は特に終わったんだよと、勇人がご飯茶碗から顔を上げる。ねぇ、さやか、私しばらく家にいるから、平日の昼間でも帰ってきたら?
そうね、どうしようかなぁ・・・ごめん、琢磨さんが今帰ってきた。玄関のチャイムを立て続けに押してるらしく、けたたましくなり続けている。鍵を開けて入ってくればいいでしょう。さやかの声が、電話を通してはっきり聞こえてきた。また鍵を忘れていったの?その時だ。電話の向こうからパチンと音とがした。まさか・・・さやかは琢磨に引っ叩かれたたのではないか?夫も勇人も固まったように、身動き1つしないで、耳をすましている。
電話の向こうで、ガタンと大きな物音がした。頭の中に、さやかが椅子ごと倒された映像が浮かんだ。もしもし、さやか大丈夫?思わず大声を出していた。次の瞬間、電話が切れた。唖然として携帯をテーブルの上に置いた。今のなんだよ。箸置いた勇人の声が掠れている。姉ちゃんの旦那、まさか暴力亭主って事は無いよね不安言い当てられ、絶句して勇人を見つめた。ばかだな。勇人は篤子に似て心配性が過ぎるよ。若い男ってものは、かーっと頭に血が登るもんだよ。
夫は妻や息子を安心させようと無理していたんだろう。その証拠に表情がこわばっている。鈍感の音でさえ、琢磨の暴力を想像していたことをはっきりし、余計に不安を増した。僕は男の子に手をあげたことなんて1回もないよ。っていうか想像もできない。お前はまだ独身だから、夫婦ってものがわかってないんだよ。俺だって若かった時は、篤子に怒鳴ったりしたもんだよ。そうだっただろう?そうだった・・・かな?そんな覚えは全くなかった。不機嫌な時は落ち込んでいる事はあっても、夫が声を荒らげたことなんてない。少なくともまた鍵を忘れたの?といった位の些細なことで、夫が怒鳴るなんてありえない。ましてや殴られたことなどあるわはずもない。ごちそうさま。牛すじ、すげえおいしかった。勇人の明るい声がわざとらしかった21翌日、夫会社へ送り出した後、自室に戻ってベッドに横になった。さやかのことが心配で、昨夜はほとんど眠れなかった。考えすぎだろうか。引っぱたくようなパチンと言う音や、椅子ごと倒されたようなガタンという音が頭の中に何度も蘇ってくる。やっぱり考えすぎた。あんなに無口で、静かな琢磨が、そんな暴力的なことをするはずがない。いや、無口だからこそ怖いんじゃないの?確かにざっくばらんな性格ではなかった。でもだからといって・・・・頭の中で、押し問答を繰り返す。さやか、大丈夫なの?
心の中で、何度も呼びかけうち、涙が滲んできた。台所の方でオーブントースターがちんとなった。勇人が起きてきて、朝食を作っているらしい。その後、廊下をこちらへ向かって歩いて、くる足音がした。篤子さん、まだ寝てんの?起きてるよと言いながら、だるい身体を引きずって、ドアを開けた。このアーモンドクリーム、残りちょっとだけだから、全部パンになっちゃっていい?どうぞ。いつもなら、そんな細かなことを聞きに来る勇人ではない。コーヒー淹れるけど、篤子さんも飲む?
そうね、ありがとう。何か話したいことでもあるのだろうか。部屋を出てリビングへ行くと、コーヒーの芳香に包まれた。僕さ、今日のアルバイトは夜8時までなんだ。終わったら急いで家に帰ってくるよ。どうして今夜2人で、姉ちゃんのマンションに行ってみようよ。そうだ、そうしよう。あぁでもない、こうでもないと家で心配してもらちがあかない。だったら駅で待ち合わせしましょう。夫は今夜遅くなると言っていた。もうすぐ馘になると言うのに、最後の忘年会だよと言い、楽しみにしている様子が見て取れた。リストラされる仲間がたくさんいるから、互いに話したいことが山ほどあるのかもしれない。この事は、夫には知らせないでおこう。余計な心配をかけたくないこともあるが、夫が口出しするとややこしくなる。長年に亘って、会社に勤めているから、世間の事は主婦よりよく知ってると思うのだが、おしなべて夫と言うものは、なぜか感覚がずれている。どうしてなんだろう。夜の9時を過ぎていた。篤子は、さやかの住むマンションを隼人と並んで、見上げていた。ベランダで、洗濯物が風にはためき、部屋には灯りがついている。この時間になっても、洗濯物を取り込んでいないことが、不吉な前兆のように思えて、立ちすくんでいた。
何か尋常ではないことが起きているのではないか。そう思うといても、立ってもいられなくなった。勇人とともに、1階ロビーに入り、部屋番号をプッシュしてみたが、返事がない。居留守を使ってるの?どうしてもう夜の9時だ。琢磨はまだ帰っていないかもしれないが、さやかは家にいるはずだ。電話してみるよ。勇人がさやかの携帯にかけてみたが、出なかった。その時、マンションの玄関の自動ドアが開き、40代位の男性がロビーへ入ってきた。郵便受けからダイレクトメール等を取り出しているところを見ると、このマンションの住人らしい。思わず、勇人と目を見合わせた。住人が、胸ポケットからカードキーを出して、読み取り装置にカードをかざすと、住居へとつながる自動ドアが開いた。篤子と隼人は、素知らぬふりで、男性に続いて、中に入り込んだ。3階で、エレベーターを降り、さやかの部屋の前まで行き、ドアの前に立つ。鉄扉と言うものは、こうも冷たいものだったか。永遠の内側の様子は窺い知るすべもない。チャイムを鳴らしたが、反応がなかった。勇人が玄関脇の小窓を指差して言う。電気ついてるよ。姉ちゃんはきっと中にいる。その時、怒鳴り声とともに何かががちゃんと割れる音が聞こえてきた。さやか、どうしたの?
篤子は思わず大きな声で呼びかけ、ドアをどんどんと叩いた。姉ちゃん、ドア開けてよ。さやか、開けなさい。その時、隣室のドアが開いた。見ると、30代半ば位の優しそうな顔立ちの女性が、篤子を見て目礼した。どうかされたんですか?お騒がせしてすみません。私はこの部屋に住んでいる娘の母親なんですが、その・・・・なんて言いますか、娘の具合が悪いんじゃないかと心配になりまして。ああ、お母様でしたか?そう言うと、女性はなぜかくすっと笑った。ご心配ないと思いますよ。だけど、たった今、大きな音が・・・いつものことですよ。
女性は、そう言って、微笑むと、ドアの奥に引っ込んだ。どういうこと?低い声で、篤子は勇人に尋ねた。いつも亭主に暴力を振るわれてるって言うことを知ってて笑ったのかしら?まさか、それはないだろう。だったら、何なの?よくわかんないけど、単に派手な夫婦喧嘩って言う言い方だった気がする。次の瞬間、さやかの部屋のドアが細めに開いた。まだいたの?さやかは眉間に皺を寄せて、迷惑そうに言ったいるんならどうして出てこないのよ。そう言いながら、篤子は、ドアの細い隙間からさやかの全身を素早く見た。黒いハイネックのセーターに黒いスパッツを履いていて、まるで打撲の跡を隠すとでもするかのような服装だった。今ちょっと取り込み中だったから。取り込み中って何よ。とにかくさ、また今度にしてくれる?今日は帰ってくれない?だってさやか。ごめんね。せっかく来てくれたのに。そう言ってさやかドアを閉めようとする。篤子は素早くドアノブをつかみ、ドアを開こうと、力を入れた。その時、勇人に腕を、引っ張られた。篤子さん、今日のところは帰ろう。どうして目で問いかけると、勇人は小さくうなずいた。何か考えがあるんだろうと思い、仕方なくドアノブから手を離すと、ドアがバタンと閉まり、ガチャリと遠慮なく鍵をかける音が廊下に響いた。マンションを出て、迎えにある喫茶店に入った。私、部屋の中は見てみたかった。部屋の状態を見れば、グラスが透けて見えるものだ。長年の主婦経験から直感的にわかる何かがあるはずだった。篤子さん、洗脳は、そう簡単には解けないと思うよ。洗脳って?暴力停止の妻って、みんな洗脳されている。テレビドラマでもそうだったじゃん。そう言われて思い出した。暴力停止と言うのは、機嫌の良い時は善人そのもので、暴行したことを泣いて詫びるんだと言う。そして妻は自分が至らないせいだと思い込むらしい。だけど、今みたいな生活を続けてたら、さやかは精神的におかしくなってしまうわ。焦りは禁物だよ。そんなこと言っても・・・一刻も早く連れ戻さなければ、と思うと、じっとしていられない。対策を練ったほうがいいよ。無理矢理連れ戻したりしたら、きっとこじれるよ。だけど、さやかが・・・・今まさに琢磨から暴力を振られているのではないか。そんな場面を想像していた。篤子さん、落ち着いて。座んなよ。無意識のうちに立ち上がっていたらしい。あのドラマにしたって、親兄弟が口出ししてドラ沼にはまったじゃん。
32P232そうか、そうね。さやかの洗脳を解くことが先決ね。ドラマは一応はハッピーエンドだったけど、現実はもっと厳しいと思うよ。と言うと?親兄弟よ敵視するようになって、二度と戻ってこなくなるかもそんな・・・・そんなの嫌だわ。絶対にさやかを家に連れ戻す。琢磨に対する憎しみがむくむくと湧き上がってきた。よくも弱い女に暴力は振るえるものだ。篤子は幼い頃から、弱い者、いじめをする人間が許せなかった。僕は会社の寮に入ったら、部屋が空くからちょうどよかったね。勇人は沈通な空気を払拭するように言った。うん、そうね。そうだ、そうだよね。
気持ちを切り替えようと、思いっきり深呼吸した。陰々滅々な気持ちでいると、決まって便秘になる。今は体調崩している場合じゃない。母親の自分がしっかりしなくてどうする。いつか笑える日が来ると信じて気持ちを強く保たなければ。さやかが近いうちに帰ってくる。また雑貨屋でアルバイトをするんだろうか。高校時代から店主母娘には気に入られているから、雇ってくれるかもしれない。だけど、今後を考えたら、もっときちんとした職業についたほうが良いのではないか。そうなると専門学校に通うかとも必要になってくる。学費が・・・出せそうにない。あぁ、惨めだ。それに比べて、さつきの子供たちの、なんとちゃんと自立していることか。長男の智之は、子供の頃からの夢だった。消防士になり、長女の葉月は歯科衛生士として歯科医院に勤めている。次女の睦月は看護師だ。今後も3人とも安定した人生を送れるだろう。さつきの子供は3人とも小学校から高校まで公立だった。塾にも通っていなかったし、習い事にしても葉月と樹は土方の祖母に三味線と林を無料で習っていただけだし、智之は小学生の頃からサッカーに夢中で、習い事をする時間がなかったと聞いている。勇人は来春から大手企業に勤める。有名大卒しか採らないから、勇人に限って言えば、大学を出ている意味は、確かにある。しかし、さやかはどうだ。一体、今までどれだけ教育費を注ぎ込んできただろう。小学校から高校まで、ずっと塾に通わせていたし、習い事もたくさんさせた。自分もサツキのように賢く暮らしてきたならば、今頃どれくらいのお金が溜まっていただろう。今更考えたって仕方がない。それはわかっている。だけど…。細々したことを思い出して、後悔の念が渦巻く。その繰り返しを、心の中で断ち切ることが、なかなかできなかった。さやかの結婚式と新婚旅行と新居の費用は、全て無駄に終わった。離婚するとなれば、結婚式の思い出でなどないほうがいい位だ。もっと簡素な内輪だけの式の方が、離婚後の気分も少しは楽だったのではないか。舅の葬儀の出費にしたって、庶民には大きすぎた。他の事は何度思い出しても、腹が立つ。苗字が違ってたっていいじゃないか。
先祖代々の和栗堂の墓は、一人娘だった。姑が結婚した時点で、栗田誠を継ぐものは誰もいなくなった。そして、後藤家にしても、舅に子できなければ終わりだ。ああ、舅の墓なんて作らなきゃよかった。そもそも人類に墓なんているのか。篤子さん、コーヒー冷めちゃうよ。ハット我に帰ると、勇人が心配そうに見つめていた。長い間、白もせず、窓の外の暗がりを、じっと睨んでいたらしい。沈んだ気持ちで喫茶店を出て、2人で並んで読む町駅に向かった。あれまじ?勇人がいきなり立ち止まり、さやかのマンションを指差した。篤子さん、姉ちゃんの部屋を見て。えっと・・・さやかの部屋はどこだったか。暗くてよくわからない。
37P2371、2、3階の・・・左から1、2、3、4、5つ目の部屋だから・・・その部屋のベランダには人影があった。誰かが洗濯物を取り込んでいる。あの人、琢磨さんだよね。・・・ほんとだ。なんだよ、あの人、家庭的じゃん。狐につままれたような気分だった。たまに、あいった優しいところを見せるのよ。姉ちゃんなら簡単に騙されるね。あんなことをされちゃう。本当はいい人かもしれないって錯覚するわよ。だね。寺岡と暴力振ったこと。詫びる時は涙を流したりしてさ。人が変わったように優しくなったもんな。寺岡徹と言うのは、テレビドラマの中で暴力停止の役やった俳優だ
38P238洗濯物を取り込んでくれる位のことで、ごまかされてどうすんのよ、さやか聞こえるわけもないのに、呼びかけずにはいられなかった。姉ちゃんが離婚するためには、殴られた傷跡を証拠写真として撮っておかないと。そうね、だけど、そうするには本人が目覚めないと難しいのよ。明日、バイトの帰りに本屋に寄ってみる洗脳とくための方を見つけてくるよ。うん、そうしてちょうだい。2人で研究しましょう。娘のために、とことん戦うことができていた。私は負けない。自分の命に代えても娘を守り抜く。そう決意すると、篤子の身体に力がみなぎってきた。
クリスマスローズとポインセチア・・・がっかりした。あまりに定番すぎる。いつものように昭和を忍ばせる花はどうしたのだ。冬の花と言えばカトレアかなそれともラッパ推薦かなと楽しみにしながら、駅からの道を歩いてきたのに。でも、さやかは確かクリスマスローズが好きではなかったか。突然、強烈な心配と不便さが腹の底からこみ上げてきた。気持ちをつかせるために、急いでバックからペットボトルを出して水道水をごくごく飲んだ。あれから何度か電話してみたが、1度も出なかった。メールをすれば返事は来るが当たり障りのない短いものだった。突破口が見当たらず、気持ちばかりが焦る中、勇人がDV夫から逃げる方法など、何冊かハウツーボを買ってきたので、2人して順番に読んだ。警察や役所の住民課での対処方法ばかりで、肝心要の本人が目覚める方法は書かれていなかった。いつでも帰ってきていいのよ。やっと電話が通じたとき、思い切って言ってみた。自分には帰れる場所があると言う安心感が、あるのとないのとでは大違いだ。生発待ったときにそのことを思い出して欲しい。胸がヒリヒリする思いだった。そうそう、実家にも帰って来れないよ。忙しいんだから。
そういう意味じゃないわ。嫌になったら実家で暮らしてもいいってことよ。は?何言ってんの離婚しろとでも言うの?だから・・・例えばの話よ。ばかばかしい。疲れてるからもう切るね。あの時の鬱陶しそうな声が、今も耳に残っている。城ヶ崎はと見ると、見本を生け終わったところなのか、生けた花をチェックするように様々な角度から眺めていた。いつもあなたが1番乗りね。はい、今日もよろしくお願いします。こちらこそよろしく。微笑み返した顔が、ひどくやつれているように見えた。
いつものように、最後、列に座り、新聞紙を広げていけ花のあさみをカバンから取り出して準備を始めた。そうしながらも、ちらちらと城ヶ崎に目をやる。やはりおかしい。目の周りに熊ができているし、頬がげっそりしている。前のドアから次々に女性たちが入ってきた。こんにちはよろしくお願いします。そのたび城ヶ崎は笑顔で答えているが、なんだかぎこちないしから元気を出してるように見えた。生徒たちで手分けして花を配り終えると、城ヶ崎ける際のポイントの説明を始めた。いつもと違い、それは淡々と始まって静かに終わった。これまでなら往年の女優のように、華やかな笑顔で振る舞い冗談の1つも言って生徒を笑わせるのに。後片付けをしながら、篤子は今日はどこにする?サツキに尋ねた。節約中とは言うものの、月に1度の楽しみである。さつきとのお茶は止められない。ストレス解消思えば、コーヒー代など安いものだ。篤子さん、たまに新しい店を開拓してみましょうよ。最近マンネリだし。花瓶から抜き取った花を新聞紙にまとめながらさつきが言う。今日は駅前にあるチェーン店のカフェがファーストフード店にしようと思ってた。少しでも安いほうがいい。例えば、どういうお店ホストクラブとか冗談で尋ねてみると、さつきがおかしそうに吹き出した。そんな店全く
興味ないし、そもそも先立つものがありませんよ。右に同じ。2人で笑っていると、最近入会した谷山美乃留と言う女性が声をかけてきた。もしかして、これからお茶するんですか?私もついて行ったらダメですか?まだ誰とも親しくなれてないのだろう。30代から70代までの主婦が通っているが、自然と年齢別に仲良しグループができてしまっている。その中で、篤子とさつきが年齢的に最も近いと判断したのかもしれない。いいですよ。ね?さつきが篤子の意向を尋ねるように言う。うん、もちろん
よかった。教室に入ったばかりでわからないことだけだから、色々と教えてもらいたかったんです。今ねー、どの店に行こうか悩んでたところなの。だったら、アフタヌーンティーはどうですかと美乃留が提案する美乃留はベージュのパンツと茶系のトップスで、品よくまとめていた。背が高くすらりとしていて、よく似合っている。アフタヌーン?それなんですかとサツキが尋ねる。えつ、知らないんですか?美乃留は本当に驚いたようだった。
息子の勇人が大学を卒業して、やれやれと思っていた時に、旦那様の会社が倒産し、年金も少し旦那様が使ってしまいました。その後に結婚した娘の旦那様の家庭での態度がおかしいかと、娘のさやかに電話した時に家族が思って、母親と息子が確かめようとしましたが、真相は分かりませんでした。
家族って大変だなあと思いました。 田中 深雪 より
