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何故、認知症の人は家に帰りたがるのか? 恩蔵 絢子&永島 徹

何故、認知症の人は家に帰りたがるのか? 恩蔵 絢子&永島 徹

2026年9月13日(日)晴れ 何故、認知症の人は家に帰りたがるのか

?p247〜p267抜粋

突然馬鹿にするなと大声で怒り出されたりすると、身近な家族は日常のやりとりをしているだけなのに、どうして?認知症が進んだから?

と考えてしまいがち。これが続くと、もう何も言えないとご本人との距離をとってしまうようになるかもしれませんけれど、それでは悪循環。

ご本人の状況も家族の状況も良くなりません。

怒り出すきっかけ(理由)があります。そのきっかけとなるのが相手を混乱させてしまうような聞き方や伝え方です。

やりとりの中で怒り出してしまっ

たら、自身の聞き方や伝え方を振り返ってみましょう。言葉でのコミニケーションが苦手になっているのに、矢継ぎ早な言葉で相手を混乱させてしまいませんか。

大声出して怒るといった言動は、身近な家族にとって受け入れがたいことですが、まずは悪循環を止めるのが最優先です。言葉に頼ったコミュニケーションを見直して、相手が安心できる関わりを心がけましょう。

事例19

なぜ、排泄に失敗したり、汚れた下着を隠そうとするのか。

秋子さん

女性、80歳、要介護1、アルツハイマー型認知症、娘夫婦と同居

デイサービスを利用する。秋子さんは、最近、尿臭がするようになってきました。どうやら尿漏れがひどく、ズボンにまでしみ出しているようです。

そこで、デイサービスの職員は、家族にも愛子さんの状態の変化を伝え、リハビリパンツやパットの使用を進めてみることにしました。

しかし、愛子さんは、リハビリパンツの使用を嫌がったり、汚れたパッドやパンツ隠してしまったり、トイレに流してつまらせたりなど、新たな問題が生じてきてしまいました。そんな明子さんに対して家族は、しっかりして、甘えないで自分でちゃんとできるでしょうなどと厳しく注意するので、秋子さんはますます不安定になっていきました。

脳科学からの解説

トイレの失敗はなかなか受け入れられない。

失敗しないで、トイレに行き排泄する事は、実はとても難しいことです。

まずズボンを下ろして、それから下着下ろす。たくさん着込んでいれば、アルツハイマー型認知症の人は海馬の萎縮のせいで、どこまで脱いだかがわからなくなってしまう可能性があります。そして、後頭頂皮質と注意力の問題で、一つ一つの作業に時間がかかるので、トイレに行きたいと思っても、今までと同じようなタイミングで行ったのでは間に合わなくて、失敗してしまうこともあります。

また、同じく後頭頂皮質の問題で、尿意を感じると言うことも、体から脳に届いている情報にぴんと来なくて、不確かになることがあります。

トイレに行っても、視覚情報のまとめ合いがうまくできなくて、トイレをトイレと認識できない時もあるかもしれません。(事例03)

そして、他人に介助される場合には、人に見られていると言う緊張からできなくなることもあります。

さらには、脳の問題以前に、衣類の着脱は、意外と筋力を使います。筋力は衰えれば、できなくなってしまうことでもあるのです。

健康な人が当たり前にできることが、実はどれだけ難しいか、こうして書き出してみるとわかります。

しかし、明子さんは、リハビリパンツの使用を嫌がったり、汚れたものを隠しているとの事。トイレの問題は簡単にこんなの失敗しても大丈夫と思えないところがあるのです。

オーストラリアの精神科医、ジークムント、フロイトは、私たちの発達過程で、排泄のタイミングを自分でコントロールできるようになることが、幼児の自信や自己規律感に重要な影響をもたらし、その後の成長に影響すると考えていました。

4、5歳の子供も、トイレの失敗は恥ずかしがって、それを隠すような行動を取ることがあります。

自分が自分で生きていけるという感覚と排泄は深く関係していて、私はトイレで排泄ができる、汚れてなどいないと言えることが自分の誇りになっていくのです。

大人になって、オムツを履くのは、やはり、自分1人で生きていくことができなくなった証拠のようです。(実際には誰も1人で生きていくことなんてできないのですが)屈辱を感じやすいのかもしれません。

自分でなんとかしようと言う気持ちから、汚れたものを隠そうとして、トイレに流したりすることがあるのでしょう。

トイレの問題は、他の問題よりも自尊心を傷つけやすいところがあるのです。

家族にとっても、トイレの失敗はなかなか受け入れにくいものかもしれません。

尊敬してきた親だけに、今までとのギャップから、もう自分で排泄ができなくなってしまったのかとショックを受けてしまうことがあります。

もうこれ以上は、面倒見られない、見られたくないと言う気がしてしまうものの代表が、排泄の失敗なのかもしれません。

プライドに配慮するとともに、早めの行動を心がける。

対策としては、もちろん早めに行動する、行きたくなくても先にトイレに行っておく、ということが大事です。

作業に時間がかかるのが問題なら、時間をとればいいだけだからです。

しかし、トイレの失敗は、1回するようになると、それ以降ずっと失敗してしまう、と言うわけではありません。プレッシャーをかけられたり、急がさられているときには、どんなことでも、誰でも失敗する確率が上がる。たまたま急いで行ったときなどに、うまくトイレができなかったことがあっても、別にだからといって次もできないわけではありません。

また、事例01で、大脳基底核と小脳が、司る、体の記憶は、比較的アルツハイマー型認知症の影響を受けにくい、と言う話をしました。

体を繰り返し使えば、その動作は身に付いていく。その意味でトイレに行く?と毎日数回促されている人は、毎回行くたびにトイレができるわけではなくとも、何も声かけされていない人よりは、その動作が維持され、やすかったり、その動作にぴんと聞きやすかったりします。それで本当に自分が行きたくなったときに、その動作をうまく行えて、普通に排泄できることがあります。

間に合わなくなったときの保険のためにおむつを履くのだけれども、オムツを履いたからといって、それで終わりと言うわけでは無いのです。おむつにすることで、尿が漏れ出すことも、匂いもしなくなりますし、施設などで他人の前で失敗することがなくなるので、逆に自尊心を保つことができるかもしれません。

アシストポイント

排泄に失敗したり、汚れた下着を隠そうとしてしまったら・・・・

本人のプライドを大切にしましょう。

ご本人の思い:

私、自分で何とかしたいです。

ご本人は、排泄の失敗に気づき、自分でなんとかしたいと言う思いを持っています。アシストポイントはその気持ちを指示すること。

例えば、リハビリパンツ=排泄、失敗するようになった人が使うものではなく、 より快適に、生活していくために、工夫上手な人が選ぶものと言うことが伝われば、ご本人も安心して使いやすくなるでしょう。

同時に使ったパンツの片付けについても、アシストが必要です。リサイクルボックスと言うような名称で、わかりやすいように片付け場所を設けるのも1つの方法です。本人の習慣などにも配慮し、安心できる工夫をしてみましょう。

事例20

なぜ、特に夜間は、トイレの場所がわからなくなるのか。

六郎さん、男性、要介護3、81歳、アルツハイマー型認知症、妻と2人暮らし

六労さんは、5歳年下の妻と2人暮らし。息子は遠方に住んでおり、デイサービスとショートステイを利用しながら、夫婦で助け合って生活してきました。現在の六労さんは、音や動きなど、周囲からの刺激にも敏感で、状況がわからずにイライラしたり、混乱することが増えてきています。

そんな六郎さんのことで、妻からデイサービスの職員次のような相談がありました。

夜中に起き出して、トイレに行こうとしたようですが、場所はわからなくなってしまったのか、居間のテレビの前で用を済ませてしまったのです。

やはり、寝室にポータブルトイレを用意したほうがいいですか?あとリハビリパンツも使ってみようと思うのですが、どういうものが良いでしょうかと言うものでした。

脳科学からの解説。

気を散らす刺激はなるべく除去する。

アルツハイマー型認知症では、六郎さんのように感覚が敏感になって、混乱することがあります。それは何故かを説明しましょう。

言葉と言うのは、脳が受け取っているすべての情報をまとめ上げて、最終的に口を動かして表現されるものです。

今、自分は、こういう状況にいて、こういうことを体験していると、状況が言語的に理解できれば、例えば電話が鳴った場合、その音の理由が分かります。この部屋には電話があって、あれが鳴っているんだと理由がわかれば、その人がただのうるさいものではなく、意味のあるものとなり、電話に出ると言う正しい行動に移るでしょう。

しかし、海馬の萎縮や後頭頂皮質の活動低下のせいで、そのように言語的に体験をまとめ上げて理解することが苦手になれば、鳴っている音の理由を特定できません。理由がわからない音は、不快なものです。健康な人にはうるさいと感じられない音まで、理解できない嫌な音に聞こえてしまうことがあるのです。不快なものからは、なかなか意識を逸らすことが難しいもので、そういう不快な1つ1つの刺激に惑わされて、自分のすべき作業が完了できなくなってしまうこともあります。

対策としては、何か作業に集中してほしいときには、気を散らされる他の刺激はなるべく除去することです。

動作線上に支障となるものや音がないように、それと、案外すんなりトイレにも行けるようになるかもしれません。

また、私の知る中ではこのような例もありました。トイレのドアを開けたら、赤いキャップのトイレ用洗剤が置いてあり、その赤色が注意の問題のせいで口紅と誤認され、女の人が中にいるかもしれないから、トイレに行けない。と感じていた人がいたのです。その洗剤をどかしただけで、その人はトイレに行けるようになりました。

特に夜間は、昼間よりも暗いために、状況認識することが難しくなります。

六郎さんは、そのためにパニックを起こして、いつもだったらできることができなくなって、トイレの場所がわからなくなったのでしょう。

空間認識に重要な場所細胞

海馬と言う新しい記憶を作る組織は、不思議なことに、空間認識の重要な役割を果たしています。

海馬には場所細胞と呼ばれる細胞があります。例えば、ネズミに迷路の中を歩かせて、新しい空間を学習させるとしましょう。

ネズミの海馬にも、場所細胞があって、この細胞の一つ一つはネズミが、その迷路のある特定の場所に行った時にだけ活動するようになります。

しばらく歩き回ると、海馬の場所細胞たちはそれぞれ、その空間の中で担当の場所が決まってくるのです。海馬の場所細胞が何らかの原因で機能しなくなると、新しい場所がうまく覚えられなくなってしまうと言われています。

図17: ネズミの場所細胞

迷路の中の点々は、ネズミが歩き回るにつれて、それぞれの神経細胞が担当するようになった場所。海馬の中には、このように特定の場所を担当する神経細胞がある。それを場所細胞と呼ぶ。

一方、全く新しい場所でなく、慣れているはずの自宅であっても、空間認識に問題が出る事はあるのかもしれません。

特に夜は、部屋が暗く、何がどこにあるかと言う空間の様子を視覚的に把握することが、昼間よりも圧倒的に難しくなるます。

信頼できる目印が見つからないために、家と別の場所を(ショートステイに行くようになっていたなら、自分が今いる場所をショートステイの部屋と)勘違いして、いつもの場所でないところで、トイレをしてしまうのかもしれません。このような混乱によりトイレができなくなっている場合は、トイレをしたい感覚がわからなくなっているわけではないので、対策としてはトイレのドアを開けて一晩中電気をつけて、トイレが目に付けやすいとしておくと良いかもしれません。

すぐ様、何もかもができなくなってしまうわけではなく、トイレが目につきやすくしておくなどの簡単な工夫により、機能が戻ることもあるのです

コラム

場所細胞

海馬は新しい記憶を作るだけではなく、空間認識にも重要な役割を果たしている。自分がいつどこで何をしたと言う言葉で語られる記憶を新しく作るのが海馬の主な役割である。

それと関連して、場所細胞は今、自分がどこにいると言う記憶を作り出すことに貢献していると思われる。夜、電気をつけていない暗い中では、今自分が家にいると言うことを把握する必要があるが、その手がかりを得にくい。だから、慣れた家であっても、別の場所と取り違えて、うまくトイレに行けないことがあると考えられる。

アルツハイマー型認知症の方には、トイレの問題は自尊心を非常に傷つけてしまうので、トイレの場所をわかりやすいよう気をつけたいと思います。

田澤 美雪&田中 深雪より皆様へ

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